『ハハハのがくたい』

ハハハのがくたい (こどものともコレクション2009)

ハハハのがくたい (こどものともコレクション2009)

(このレビュー、ネタバレ含む。)

 これは、すごい。「絵本」というものを徹底的にやってしまうことで、「絵本」の崩壊を誘い出しているかのようだ。少なくとも、教育的とも言うべき絵本がいかにくだらないものかを感じさせる触媒と成り得ている。そもそもが、発達の「ため」、成長の「ため」の絵本ではなく、絵本を読むこと自体が絵本の目的であるべきだったのかもしれない。

 出だしは、0〜2歳児向けくらいのオノマトペ攻撃からはじまり、そのうち、なんかこの本、ストーリーらしきものがあるようだぞ、と思わせたとたんに、妙に数字の「7(なな)」にこだわった歌詞を登場させ、「なんだ、数の勉強をするのか」と思ったら、「7」しか出てこない。なんじゃそりゃ?続けて、子どもの心を鷲づかみしそうな「しんだ」「しんじまっただ」と明るく連呼するブラックな歌詞を出し、そしたら今度はおもむろに「ハハハのがくたいは泥棒だった」とかなんとか書いてある新聞をおじさんたちが読んでいるシーン登場。おじさんたちが持っている新聞のあちこちに散在する落書きのような隠しメッセージが子どもを惹き付けそう。そして、クライマックス。突然、それまで仮名文字だけの本だったのが、漢字(ふりがなつき)だらけで文字数のかなり多い新聞記事の見開きを2連発させる。「国防費」などという幼児〜小学校低学年の子には難しい語まで出してしまう常識的には節操のないありさま。泥棒が忍び込んだルートを示した地図を載せ、それを新聞記事の文章でも説明してみせているが、幼児には少々難しい叙述である上に、分かったところで大した意味はない、という…。でも、こういうのを子どもって喜んで読みそうな気もしないでもない。最後は、最初のオノマトペ攻撃のリフレインで、「3部形式」や「ソナタ形式」のような音楽的な形式美まで感じさせ、終了。

 裏表紙に、なぜか高橋悠冶さん作曲の歌の譜面が載っていて、なんか深い意味ありげな本の感じがするが、まず子どもには分からないだろう。

 訳が分からんが、なんかすごい。対象年齢も何も想定していない感じが、爽快!!

 例えるならば、こういう書評ブログで「MacBook Air 11インチ欲しい!」などと、脈略もなく突然、書いてしまうようなものだろうか。

 子どもにウケそうな要素が随所に盛り込まれているが、本当にウケるかどうかは分からんので、試したくなって購入。しかし、今のところ、この本にハマる子は皆無。読みきかせは、収拾つかなそうで、ちょっと勇気がいる。一応、裏表紙に「読んであげるなら 3才から 自分で読むなら 小学校初級むき」と書いてあるが、どういう判断なんだ?

 いやー、絵本のマーケティングって難しい…そんなところか。一番の読者層は大人だったりして。