『しのびよるネオ階級社会』
- 作者: 林信吾
- 出版社/メーカー: 平凡社
- 発売日: 2005/04/11
- メディア: 新書
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日本の行政サイドからのインクルージョン教育への流れは(今現在、ひょっとすると流れは途絶えようとしているかのように思えたりもするのだが)、文部省官僚(当時)の山口薫さんが、イギリスのマンチェスター大学教授(当時)であるピーター・ミットラーさんを通じて学んだことが源流となっているみたいで(『増やされる障害児』宮崎隆太郎pp.74-76)、それなのに、そのイギリスが階級社会だって本当かよ!とブックオフでこの本を見つけて戦慄が走り、購入。著者がたびたび自分の本がすごい本だのなんだのと書いちゃっているので、アマゾンのレビューではその横柄さが反感を買っているようだが、私にはそこらへんはジョークにしか思えないので、そんなところはまったく引っかからなかった。むしろ、この人、自己肯定感が高くていいではないか。自己否定感の裏返しで強がっているようには読めなかったし。
- 作者: 宮崎隆太郎
- 出版社/メーカー: 明石書店
- 発売日: 2004/09/09
- メディア: 単行本
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イギリスがどんな階級社会なのかは、最初のほうで早速紹介される。
>上流階級
・国王(現在はエリザベス二世女王)
・貴族階級(王室をはじめとする)
・代々の大地主(古くはジェントリーと呼ばれる)
>中流階級
・アッパー・ミドルクラス(医師や弁護士といった昔から地位の高い専門家、大企業のエグゼクティブ、成功した芸術家)・ミドルクラス(高学歴のエリートサラリーマン、キャリア官僚、パイロット、大学教授、中堅以上の自営業者)
・ロウアー・ミドルクラス(一般的なホワイトカラー、下級公務員(公立学校教師を含む)、自営農民、零細自営業者、職人)
>労働者階級=ワーキングクラス(特別な資格やスキルを必要としない仕事に従事している人たち)
階級というものは資産や収入とは基本的に関係ないのだが、ここのところが分かりにくいかもしれない。日本でも、お昼のメロドラマで、戦時中に主を失い資産をどんどん売却せざるを得なくなって没落していく華族が描写されることがあるが、あれは落ちぶれても華族は華族ということなのだな。同様に、イギリスでも貧しい生活をしている貴族が結構いるらしい。
それで、階級が違うと受けられる教育が違ってくる。とは言っても、違う階級に移ることが全くできないわけではなく、例えばサッチャーやメージャーは労働者階級の出身だったというが、それにしても、労働者階級の子がパブリックスクールに入学しようとすると、入試時に大変な差別に遭い、とても入学しにくい仕組みになっているらしい。ちなみに、パブリックスクールというのは中高一貫の私立校で、イギリスのエリートは大抵ここを卒業している。また、イギリスでは学歴を語る場合、大学より、どこのパブリックスクールを卒業しているかによってその人の階級・学業成績・個性を推測する風潮があるらしい。
だから、イギリスでは労働者階級の子は労働者階級として生きていくことが、自分の努力とは関係なく生まれながらにしてほぼ決定しているわけだ。労働党が政権を取るたびに、その歴史的な慣習が少しずつ改変されてきたようだが、イギリス社会というのは、今ですら基本的に階級社会であるという。議会制民主主義の国だっていうから、みんな平等な社会なんだと思っていたよ!
今現在、日本の社会は「アメリカ型の競争社会」になりつつあると憂う人たちが多いようだが、「競争社会」と「階級社会」は全く違うものであるということを著者は繰り返し強調する。「競争社会」は機会の平等が与えられ、かつ、結果の不平等のある社会であるが、階級社会ではそもそも機会の平等すら与えられない。さらに著者は、日本が「競争社会」ではなく「イギリス型の階級社会」になりつつあることを指摘している。とは言っても、そのあたりは今ひとつ論拠に乏しく、また、この本が出版されてから(2005年初版)数年経った現在、若干、状況は変わっているとも思う。しかし、それにしても、日本が階級社会に向かっているというのもひとつのシナリオとしては十分ありうる話だと思って、読んでおくのも良いかもしれない。
まあ、この話は、私が相当昔に読んだ、栗本慎一郎さんの『大転換の予兆』での、ボーダーレス化が進むと逆にソーシャル・モビリティ(社会的流動性)が確保できなくなるという分析とダブっているので(要するに、社長の子は社長に、自転車屋の子は自転車屋になるしかない社会になる…という話)、私としては『しのびよる〜』で、その状況が憂うべきことに現実化しつつあるらしいことをより具体的に確認したに過ぎなかった。また、これはちょっと用心して読みたい本だが、苫米地英人さんの『洗脳支配』にも、とうの昔から現在に至るまで、すでに日本社会には階層があるのだけれど、一般には知らされないようになっている…という話があり、それを読んでいたので『しのびよる〜』は、それほど真新しい議論ではなかった。しかし、この『しのびよる〜』はより具体的ではある。
- 作者: 栗本慎一郎
- 出版社/メーカー: 東経
- 発売日: 1992/04
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- 作者: 苫米地英人
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- 発売日: 2008/02/21
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イギリスの労働者階級の人たちは、(ここらあたりは非常に言語化しにくい難しい心情があるようなのだが)貧困から抜け出したいとは思っているものの、労働者階級であることに誇りを持っているという。中流階級のやつらを「カッコつけやがって」「あんな気取った人間にはなりたくない」などと嫌っているという。話はちょっと違うが、インドのカースト制度下でゴミ拾いを生業としている人を、大変だろうと思った〈私の知人の)日本人旅行者が手伝おうとしたら、「私の仕事を横取りするな!」と激怒され、どうやら彼らはゴミ拾いといえども自分の仕事や階級に誇りを持っているらしいと感じたという話を聞いたことがある。階級社会に所属する感覚というものはそういうものなのだろうか。
そういうことからすると、もうピークは過ぎたとは思うが、数年前に日本でも、「貧しくても楽しい生活」「お金より心の豊かさの時代」だのと、そっち方向に扇動する雰囲気があったが、こういう雰囲気こそ、階級社会の成立を支持する人々の意識をいつの間にか形成していくものである可能性があるような気がしないでもない。
また、実質、日本でも、子どもの将来のステータスが決まってしまう年齢がどんどん低年齢化していることを、私は実感している。そんなもの変わっていないだろう?と思う人は、もうすでに自分の属する階層のことしか見えないように、情報が遮断されているかもしれないので、幼児教育産業付近でフィールドワークのようなことをしてみると、今、自分が暮らしている社会が違うものに見えてくるかもしれない。私は、その昔、荷物配達や水道メーターの検診のアルバイトでかなりの数の地域や家庭を訪問した経験があるので、格差社会だのなんだのと騒がれ出すより遥か昔から日本の社会には階層があることを実感として知っていた。そして、今に至っては、社会的ステータスがそれなりに高くなった方々の一部(大半?)における、幼児期から子どもに幼児教室のハシゴをさせ、幼稚園からエスカレーター式で高校まで進めるような人生を親が子どもに準備する子育てスタイルの確立を、仕事柄、身近なムードとして、しばしば確認している。定員割れしている大学が多くなり、大学進学は難しいことではなくなっているようだから、「受験戦争なんて昔のことなのに、幼児期からこんなに勉強させてどうするの?」と思いきや、一流企業や官庁に就職が可能な出身大学は限られているので、すでに幼児期から受けるべき教育を受けさせないと、安定した職業に就けなくなると一部では考えられているようである。(まあ、10年後、20年後に世の中がどうなっているかは知らないが。それに、幼児期から子どもをそんな目に遭わせて、まっとうな大人に育つかどうかもかなり怪しいのだが。)そういえば、一般の公立学校へ進学するような子どもと自分の子どもを一緒に遊ばせると汚い言葉を覚えて困る…という憂うべき子育て感覚も一部で広まっているようなのだが、それって、“イギリスでは階級により使う英語が違う”という話とダブってくる。
さて、「機会の平等」とは、即ち、教育を全ての国民が平等に受けることができることを意味するが、そもそもイギリスではそこからして平等ではなく、自分の属する階級により受けられる教育が違う。そんな背景がありながら、イギリスでは「インクルージョン」などと言う学者が現れるとは、一体全体どういうことなのか?国際的にインクルージョン教育の最高指導者とも言われているピーター・ミットラーさんは労働党寄りだとか、イギリス社会の変革を目指しているのだとかいうのなら合点がいくが、このあたりのイギリスの事情を知らずしてインクルージョンを叫ぶのは、なにか真実を見失ってしまう気がする。果たして、健常者ですら「包み込む」なんてことにはほど遠い実態がある国で、健常者や障害者の区別なく包み込む教育を、どうやって行ったというのだろうか?また、インクルージョン教育というものは、イギリスで言えば、どの階級の教育(私立学校?公立学校?)で行われるものなのだろうか?
そのあたりを視野に入れ、今後、もう数冊イギリス社会についての本を読むか、ミットラーの著作を読むか、考え中。
イギリス・シンドローム―私はいかにして「反・イギリス真理教徒」となったか
- 作者: 林信吾
- 出版社/メーカー: ベストセラーズ
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イギリス人はおかしい―日本人ハウスキーパーが見た階級社会の素顔
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イギリス人はかなしい―女ひとりワーキングクラスとして英国で暮らす
- 作者: 高尾慶子
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- 作者: ピーターミットラー,Peter Mittler,山口薫
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