『ちいさなねこ』

ちいさなねこ

ちいさなねこ

(このレビュー、ネタバレ含む。)

 まずは、図書館で読みました。

 冒険する子どもが、危険に遭遇したところへ母親が助けにやってきて、最後は母親のそばで安心・・・というありがちな話を、(絵からして)昭和に生きるネコの寓話として表現。子どもが無意識で反応してくれそう。子どもに安心感を与える意味でも、相談室の本棚にはなかなか良いラインナップになりそう。昭和の香りが漂ってくる絵が繊細なタッチで、絵を見ているだけで、子ネコを両手で抱え上げたときの、あの、胸部や背中のゴツゴツした感触と、腹部のやわらかくてあったかい感触の記憶が自分の手のひらによみがえってきます。写実的で、ネコの躍動感が伝わってくる生き生きとした絵です。こういう感じの絵本を置いておいて、子どもが何気に興味を絵の美しさにも向けてくれると、それもなかなか良いのではないか・・・ということで、購入決定。

 ところが、あんまり、子どもたちは自ら進んでこの本を手にしようとはしません。同じ本棚に並んでいるジブリ関係の本の惹きつけ感に圧倒されているのでしょうか。あれは対象年齢が広く(絵をみているだけの子どもも多いですが)、たいていの子どもを虜にしてしまう登場人物が非凡なキャラ立ちの無敵の本なので、比べられるのも酷というものでしょうか。

となりのトトロ (徳間アニメ絵本)

となりのトトロ (徳間アニメ絵本)

千と千尋の神隠し (徳間アニメ絵本)

千と千尋の神隠し (徳間アニメ絵本)

 年長〜小学生で、『ちいさなねこ』を手にして、ページをめくってみている子どももいますが、それもせいぜい1回きりで(途中で読むのをやめる子もいる)、『となりのトトロ』や『千と千尋の神隠し』のような激しいリピーターを獲得するほどの実力は、やはりないようです。もちろんジブリもいいですけど、なんだか残念。

 それでもめげずに、私、「こんないい本もあるんだよ」と、子どもに興味を持ってもらいたくて、2〜3歳くらいの子どもに読み聞かせをしてみることにしました。すると、読み始めは、みんな大して興味ないような素振りをしているけれど、子ネコが犬に追いかけられて、ようやく木に登って逃れるシーンになると、いつの間にか子どもは物語に引き込まれていて、身体を緊張させたり、思わず立ち上がったりして、子ネコに感情移入している様子が窺われることが、多々ありました。その後、お母さんネコが助けにきてくれるシーンで、子どもたちはみんな、“ああ、よかった”と安堵して、物語が終わります。不思議ですが、子どもがストーリーの流れというか、因果関係をはっきり意識レベルで認識していなくても、この反応が起きている可能性があります。これはなかなかいい感じです。従来の考え方で言う「言語理解力」を、相当には持ち合わせていないであろう子どもでも、ちゃんと読み聞かせれば、反応します。心理学(あるいは哲学の方がこの問題を扱う分野としては適切かも)は、未だに「言語を理解する」とはどういうことなのか、明らかにできていない気がします。

 この手の子どもの反応、他の本でもありますよね。『ノンタンおよぐのだいすき』とか。(あっ、これもネコだった!!)

ノンタンおよぐのだいすき (ノンタン あそぼうよ4)

ノンタンおよぐのだいすき (ノンタン あそぼうよ4)

 そういうことで、しかけ絵本からそろそろ物語本へ移行しようという子どもが、無意識に感じているものを、繰り返し繰り返し読んでもらいながら徐々に自分の中で言語化していく体験を、この本を通してできるのではないかと、私はそんな期待をしているわけなのです。